SBI証券と楽天証券が、グループ内で組成・販売する暗号資産投資信託の準備を進めていることが、2026年5月17日のCoinDeskおよび日経の報道で明らかになった。対象資産はビットコイン(BTC)とイーサリアム(ETH)から開始する設計で、販売開始は2026年Q4(10〜12月)を狙う。両グループ合算で3年以内に運用残高5兆円(約330億ドル) を内部目標に掲げているとされ、日本のリテール向け暗号資産アクセスの構造が大きく変わる可能性が出てきた。本稿では報道された商品設計の特徴と、関連法改正のタイミング、規模感の論点を整理する。
ETFではなく「投資信託」での組成という選択
報道によれば、両社は米国のスポットBTC ETFのような上場型ではなく、国内法上の投資信託(投信) として組成する方針だ。仕組み上の違いは投資家体験に直結する。
ETFは証券取引所で売買され、価格は時々刻々と変動するため、指値・成行といった発注操作が必要になる。一方で投信は基本的に基準価額が1日1本で決まり、ネット証券のアプリから積立設定を入れて自動で買い付けることができる。インデックスファンドや株式投信を購入し慣れた個人投資家の感覚に、そのまま接続できる形だ。
ターゲット層として浮かび上がるのは、「BTCを直接買った経験はないが、つみたてNISAでオールカントリー型などを保有している層」だ。暗号資産取引所の口座開設や送金、ウォレット管理といった独自の作業を介さず、既存の証券口座のメニュー内で完結する選択肢が増える格好になる。
2026年4月の法改正が制度的トリガー
なぜ2026年というタイミングで動き始めたのか。背景にあるのは、2026年4月に閣議決定された法改正だ。暗号資産が資金決済法から金融商品取引法(金商法)へ位置付け直される方向で、施行は概ね2027年度を見込む。これにより、暗号資産は株式や債券と同じ法体系の中で扱われる枠組みへ移行する。
投信法側の改正も2028年頃に予定されており、そこで「投信が正式に暗号資産を保有できる資産クラスとして扱える」枠組みが完成する見込みとなっている。SBIと楽天は、この制度完成を待たずに先回りでプロダクト開発を進めている、ということになる。
報道では、国内大手証券・ネット証券11社が「規制環境が固まれば暗号資産ファンドを検討する」と回答したアンケートの存在にも触れられている。表に出ているのがSBIと楽天の2社だが、水面下では業界横並びでプロダクト開発レースが進んでいる構図だ。
「3年で5兆円」という目標の規模感
両グループ合算で3年以内に運用残高5兆円(約330億ドル)という目標は、現状の市場規模に照らすとかなり野心的な数字だ。
比較対象として、米国スポットBTC ETF全体の純資産は1,000億ドル超で、日本円換算では概ね15兆円規模に達している。日本の証券会社2社合計で5兆円を目指すという話は、米国市場の3分の1相当を日本のリテール(と一部機関)で吸収するという構図に近い。
数字の裏付けとして報道で示唆されているのは、ターゲットに年金基金・大学基金を含めている点だ。ETFの直接買いとは違い、機関や法人による組み入れが想定されている設計と読める。投信という器を選んだことで、規制された投資商品としての配分先になり得る、というロジックだ。
達成の前提条件は複数ある。BTC/ETH価格がそれなりに安定していること、加えて国内の暗号資産関連税制が分離課税化される方向で整理されることが、まとまった資金流入を後押しするとみられる。現行の総合課税(最大55%)のままでは、富裕層の本格参戦には壁が残る構造が続く。
既存の国内取引所との住み分けはどうなるか
投信が出てくると、国内取引所のユーザーは取り込まれてしまうのか。報道された商品設計を踏まえると、住み分けの軸はいくつかある。
1つ目は、約定タイミングの違いだ。投信は1日1本の基準価額で売買するため、デイトレや短期売買には適さない。現物の即時売買が必要な用途では、引き続き取引所が選択肢になる。
2つ目は、コスト構造だ。投信には信託報酬がかかる。一般的に年率1〜2%程度のレンジが想定され、長期保有では1%以上のコストでも累積で小さくない負担になる。「自分で現物を保有して継続コストを抑える」ニーズは、投信の登場後も並走して残る。
3つ目は、用途の違いだ。Web3・DeFi・NFTなどでオンチェーンに触る場合、自分のウォレットにETHを送る前提となる。投信ではこの動線は取れない。
「投信が誰のためか」という論点
報道された設計を見ると、SBIと楽天が想定するターゲットには個人投資家だけでなく年金基金・大学基金が含まれている。これは商品設計として、ETFよりも企業・機関による組み入れを意識した構造だ。
長期的な視点では、規制された投信経由で年金マネーが入ること自体は、暗号資産という資産クラスの正当化につながりやすい。一方で、個人投資家がリスクを取って買い増した後に機関が後から入る局面では、需給バランスや短期の値動きに影響が出る可能性は残る。
今回の発表段階で確定しているのは「準備の存在」と「2026年Q4販売開始の意図」「3年5兆円の内部目標」までだ。実際の信託報酬水準、対象資産の追加可否、ロールアウトスケジュールの詳細は、今後の正式アナウンスを待つ必要がある。
整理:今回の報道で確定している事実
- SBI証券と楽天証券が暗号資産投信の準備を進めていることが、2026年5月17日にCoinDeskと日経で報じられた
- 対象資産はBTCとETHから開始
- 販売開始のターゲットは2026年Q4
- 両グループ合算の内部目標は3年以内で運用残高5兆円(約330億ドル)
- 商品形態はETFではなく国内法上の投資信託
- 制度面の前提として、2026年4月閣議決定の金商法移管(施行2027年度見込み)と、2028年頃に予定される投信法側の改正がある
- 報道アンケートでは国内大手証券・ネット証券11社が「規制環境が固まれば検討する」と回答
出典: CoinDesk(2026年5月17日)、日本経済新聞(2026年5月17日)
※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の暗号資産や投資商品の購入を推奨するものではありません。投資は自己責任で行ってください。過去の実績は将来の利益を保証するものではありません。
