2026年5月15日、Abu Dhabiのソブリンウェルスファンドであるムバダラ・インベストメント・カンパニーが、米SECに2026年第1四半期(Q1)の13F開示を提出した。BlackRockのスポットBitcoin ETF(IBIT)の保有株数は前四半期比16%増の1,472万株、評価額は約$565.6Mに達した。3四半期連続の積み増しであり、同じくAbu Dhabi投資評議会(ADIC)傘下のAl Warda Investmentsの保有分も含めると、Abu Dhabi系のIBITポジションは10桁ドル規模に乗っている。本稿では13F開示の数字を時系列で並べ、ソブリンマネーの行動原理を3つの観点から整理する。
半年で3回連続の積み増し、株数ベースでは一度も減らしていない
ムバダラのIBIT保有は、2024年第4四半期に約$436Mで初開示された。そこから一度も減らさず、3四半期連続で積み増している。
| 四半期末 | 保有株数 | 評価額 |
|---|---|---|
| 2024年Q4 | 約820万株 | 約$436M |
| 2025年Q3 | 約1,070万株 | 約$520M |
| 2025年Q4 | 1,270万株 | 約$510M |
| 2026年Q1 | 1,472万株 | 約$566M |
四半期ごとに200万株前後ずつ買い増しているペースだ。BTC価格は2025年10月のATH $126Kから一旦$70K台まで下落しているが、株数ベースで見ると一切減らしていない。むしろ価格が下がった四半期に買い増している格好で、ヘッジファンドの典型的な動きとは構造が異なる。
ADIC傘下を合算するとAbu Dhabi系でB超
ムバダラ単体だけだと話が半端だが、同じくAbu Dhabi投資評議会(ADIC)傘下のAl Warda Investmentsも、2025年Q4時点で約820万株(約$408M)のIBITを保有していた。両者を合算すると、Abu Dhabi系で2025年末時点に$1B規模のIBITポジションを抱えていた計算になる。
GCC(湾岸協力会議)諸国のソブリンウェルスが、米国規制下のBitcoin商品で10桁ドル規模のポジションを取る構図は、過去にほとんど例がない。サウジのPIFがTesla経由でBTC間接エクスポージャーを持っていたケースはあるが、ストレートにBTC ETFを9桁・10桁の単位で持つ立場として、ムバダラは現時点で先頭集団に立っている。
ソブリンが「売らない」理由を3つの軸で読む
ここからは13Fの数字に対する見立てに入る。表向きの理由は「ポートフォリオ分散」「インフレヘッジ」「デジタルゴールド」と並ぶが、Abu Dhabi系の行動を構造的に説明するには、もう一段政治的な文脈を見たほうが整理しやすい。
軸1: ドル準備の代替アセット探し
GCC諸国、特にAbu Dhabiは石油輸出をベースにドル建て外貨準備を厚く積んできた。2022年のロシア中央銀行資産凍結以降、自国資金がドル決済網に依存していること自体が地政学リスクとして強く意識されている。
その文脈で、米国規制下のIBITというのは独特なポジショニングだ。ドル決済から完全に切り離せるわけではないが、SWIFT制裁が及ばない原資産にエクスポージャーを取れる。さらに、それをBlackRock経由というウォール街最大手の名義で持つことで、米財務省との対立軸ではなく協調軸の中で枠を確保している。外交設計として相当に手堅い。
軸2: UAEの暗号資産国家戦略との整合
UAEはVARA(ヴァーチャル資産規制庁)を2022年に設立して以来、暗号資産事業者の誘致を国家戦略として動かしてきた。Binanceのドバイ拠点強化、Bybitの本社実質移転、Chainalysisの中東統括設置など、シンガポール・香港を抜いて中東最大のクリプトハブになりつつある。
国家ファンドがBTC ETFを公開ポジションで持つことは、その国家戦略に対する出資側からのコミットメントのシグナルでもある。誘致政策と資本配分が同じ方向を向いている、と国際社会に明示的に見せている格好だ。
軸3: 後継SWFへの先行事例づくり
あまり指摘されない論点として、Abu Dhabiの動きを見て他のSWFが追随する流れがすでに始まっている。ノルウェー政府年金基金(NBIM)はマイニング企業株を経由した間接エクスポージャーを増やしているし、シンガポールのGICはCoinbase株を保有開示している。
ムバダラはこの流れの最も露骨な版を見せにいっている形だ。半年ごとに13Fで増加幅を開示し続けることで、「ソブリンが買えるアセットだ」という社会的なお墨付きを与えにいっている。2020年代前半のMicroStrategyが企業に対してやったことと、構造は同じだ。
現時点でネット売却に転じたソブリン系IBIT保有者はいない
13Fは買いだけでなく売りも開示される。ムバダラ、Al Warda、GIC、ノルウェーNBIM──現時点で開示されている主要ソブリン関連のIBITポジションで、ネット売却に転じたエンティティはほぼ存在しない。
これがリテール感覚と一番違う点だ。個人投資家は$80Kを割ると不安になり、$70Kを割ると半数が手放すという傾向データがあるが、ソブリンは時間軸が違う。四半期ベースでの平均取得単価が重要で、月足の上下にはあまり反応しない設計になっている。過去のBTC弱気相場(2018年、2022年)で売り抜けた長期保有者は驚くほど少ないというオンチェーンデータがあるが、それと同じ現象がETF経由でもう一度起きている可能性が高い。
個人投資家が13F開示から読み取れる2つの示唆
ムバダラの行動を真似て下落局面で買い増すというのは、資金規模も時間軸もリスク許容度も違う個人にはなかなか難しい。ただ、国家マネーがネット買いに転じているという事実から読み取れるポイントは2つある。
ひとつ、長期保有層の岩盤がさらに厚くなっている。供給側で言うと、ATHレベルでも売らない長期保有が増えるほど、次回のサイクルで供給ショックが起きやすくなる。2024年4月の半減期効果が思ったほど価格に出なかった一因(ETF経由で買い手が増えていたが、供給はすでに動いていなかった)とも整合的だ。
ふたつ、クラッシュの判定基準を見直す材料になる。$78Kへの下落で$500Mがロスカットされた5月14〜15日の動きは、機関・国家側から見れば「またディップが来た」程度の話で、彼らの行動原理は変わっていない。
BTCの現物保有や積立を考える場合、国内取引所の中ではbitFlyerがビットコイン取引量・板の厚みともに国内最大級で、価格スリッページの面で個人投資家にも扱いやすい。長期で買い増す前提なら、約定価格の安定性は無視できない要素になる。レバレッジを取らない現物積立であれば、機関が動いているのと同じ時間軸でポジションを積む方法のひとつになる。
次の13F提出までにウォッチすべき2つのシグナル
次の13F提出は2026年8月中旬(Q2分)。それまでに見ておきたいシグナルは2つある。
ひとつ、他のGCC系SWFの追随開示。サウジPIF、Kuwait Investment Authority、Qatar Investment Authorityあたりが追随した場合、「Abu Dhabiの実験」が「GCC全体の標準的なアロケ手法」に切り替わったことを意味する。
ふたつ、米選挙イヤーが終わった2026年後半に、政治環境の変化を理由に米国側がIBIT流出規制を入れる動きが出るかどうか。理屈の上では起こりにくいが、地政学が動くと何が出てくるか読めない領域だ。
ムバダラの$566Mは、Bitcoin市場全体の時価総額に対しては0.05%にも満たない数字だ。けれども、国家がデジタルゴールドに踏み込むシグナルというのは、しばしば数字以上の意味を持つ。個人投資家としては、この四半期ごとの13Fをカレンダーに入れて、淡々と数字の推移を追っていくのが地味だが効く読み方になる。
出典: 米SEC 13F開示(ムバダラ・インベストメント・カンパニー 2026年Q1、Al Warda Investments 2025年Q4)
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