「BTCに月次の配当を貼り付けたら、それは何になるのか」。この問いに、世界最大の資産運用会社が一つの解を出した。
BlackRockは6月11日、iShares Bitcoin Premium Income ETF(ティッカーBITA)のForm 8-AをSECに提出した。Bloomberg ETFアナリストのEric Balchunasは、提出から1週間以内、つまり6月19日週でのNasdaqローンチを予想している。年経費率は0.65%。仕組みはシンプルで、しかし重要な前提を孕んでいる。
何が起きたか
BITAは「自前でBTCを持つETF」ではない。中核ポジションは既存のIBIT(iShares Bitcoin Trust)であり、BITAはそのIBIT NAVに対して月次でcovered callを書く。比率は25〜35%。要するにBlackRock自身が運用するスポットBTC ETFを原資産にして、その上にオプションプレミアムを乗せる、二段構えのプロダクトである。
提出時点でトラストはBTC約110枚、IBIT約90,901株、オプション856本を既に保有済み。準備は終わっている。あとは上場日付の確定だけだ。
私はこの数字を見て、ちょっと身構えた。最初の発行体としては、明らかに「ローンチ初週で売り切る前提」のサイズ感ではない。
なぜ重要か
ここで考えたいのは、なぜBlackRockが今、このタイミングでcovered callを選んだのか、ということだ。
直近1か月、米国スポットBTC ETFは13営業日連続の純流出を記録し、週間で17.2億ドルが抜けた。IBIT単体でも13.4億ドル。価格は$60Kテストまで沈んだ。この局面で「BTC現物に追加で配分してください」と機関投資家に言っても、退ける材料の方が揃っている。
そこで「フィアット利回り」を貼り直す。これは退避先がフィアットしかない年金やファンド向けの、極めて伝統的な解法だ。covered callは原資産の上昇余地を切り売りする代わりに、月次のキャッシュを生む。BTCがレンジ相場なら最強、急騰局面では機会損失、急落局面ではプレミアムが下落クッションになる、というあの構造である。
個人的には、これは「BTCの機関化が、商品分化フェーズに入った」というシグナルだと見ている。最初は現物、次にfutures、その次にincome。株式市場でいえば、SPYの後にJEPI(JPモルガンのcovered call ETF)が来たのと、構造が重なる。
数字で見る規模
| 項目 | BITA(発表時点) | 競合(参考) |
|---|---|---|
| 経費率 | 0.65% | JEPI 0.35%、IBIT 0.25% |
| covered call比率 | NAV 25-35% | JEPI 約20% |
| 原資産 | IBIT(BlackRock自社) | スポット株式 |
| 保有BTC | 約110枚 | – |
| 保有IBIT | 90,901株 | – |
| 想定ローンチ | 6/19週 | – |
0.65%という料率は、IBIT(0.25%)の2.6倍。covered call運用のオペコストを乗せた水準で、Goldman Sachsの類似商品との競争を意識した「下げにくい上限」と読める。
個人投資家への含意
ここからが日本人読者に直結する話。BITAは日本居住者が直接買える商品ではない(米国上場ETFなので証券会社の取扱次第)。だがロジックは盗める。
「BTC現物を持ちながら、その一部に対してオプションプレミアムを取る」という考え方は、現物を国内取引所で保有しているなら、後から自分でも組める。例えば板の厚みでスリッページを抑えやすいbitFlyerで現物を仕込み、別途デリバ口座でカバードコールを書く、という二口座運用は実際にやっている人がいる。
逆に「料率0.65%を払って、BlackRockが自動でやってくれる方が楽」という発想なら、長期保有・低コストを重視する読者にはGMOコインで現物だけを持ち続けるという素直な選択肢もある。0.65%の経費はオプションプレミアムから捻出される建付けだが、年率換算でBTC価格次第では実質コストはもっと高くなる。ここは見落としやすい論点だ。
私の見立て
私はBITAの上場成功は固いと見ている。理由は単純で、IBITが既に「Wall Streetが触れるBTC」のデファクトになっており、その上に乗るproductは構造的に流動性を引き寄せやすい。ただし、これがIBIT本体への純流入を加速させるかは別問題で、むしろ「BTC現物のリスクを下げて持ちたい」プロが既存IBITからBITAへ振り替えるカニバリの方が、初期は出ると見る。
注目すべきはGoldman Sachsの類似商品(Bitcoin Income Strategy ETF系)のローンチタイミング。BITAより遅れた場合、JEPI/JEPQが米株配当ETFのカテゴリーで取ったような独占的シェアを、BTC利回り商品でもBlackRockが取りに行く構図になる。
締め
BTCを「資産」として見るか、「キャッシュフロー生成資産」として見るか。BITAはこの境界線を後ろにずらしにくる商品だ。私自身、BTCを「Sound money」として持つ派なので、月次のフィアットキャッシュフローを乗せることに哲学的な違和感はある。だが市場は哲学では動かない。流動性は構造の方に流れる。
次に見るべきは、6月19日週のローンチ初日のAUMと、その後30日の月次オプション売り建ての実績。BTC価格がレンジに入った場合のNAVリターン分布が、BITAとIBITで明確に分かれるかどうかが、商品の存在意義を決める。
※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の暗号資産や投資商品の購入を推奨するものではありません。投資は自己責任で行ってください。過去の実績は将来の利益を保証するものではありません。

