Yuga Labsが68点のBAYCをさらった夜──Flooring Protocolが暴いたNFT保管の死角

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結論を先に言う。「他人のコントラクトに自分のNFTを預ける」設計は、もう一度ゼロから疑い直したほうがいい

2026-06-08、Yuga Labsが68点のブルーチップNFTを「救出」した。BAYC 29点。CryptoPunks 2点。Azuki、Doodles、Moonbirdまで含む。総額は50万ドルを超える。

舞台はFlooring Protocol。NFTを分割し、fpTokenというERC-20として流動性プールに寝かせる仕組みだ。BT404という命名規則を継承した実装で、ローンチ当時はNFTのDeFi化の最有力候補のひとつだった。

そのコアロジックに、極めて初歩的な欠陥があった。

少額のWETHを入れるだけで、fpTokenの残高が実質無限に膨らむ。所有権の検証ロジックが、保有していないNFTを「保有している」と勘違いする。本来はあり得ない経路でアンダーフロー(整数アンダーフロー)が走り、コントラクトの内部状態が壊れる。0xQuit氏(Yuga LabsのVP of Blockchain)はこれを「ファントム所有権」と呼んだ。良いネーミングだと思う。中で何が起きているかを一語で説明している。

これはコードの話だが、もっと根の深い話でもある。本記事はその両方を扱う。

何が起きたのか──時系列で詰める

経緯はかなり詰まっている。

  • 2026-06-07夜〜08朝、攻撃ベクトルがオンチェーンで観測される
  • 0xQuit氏らセキュリティチームが2つの攻撃経路を確認
  • 1つは即座のドレイン、もう1つは保管NFT本体への到達経路
  • Yuga LabsはGrailsOTC(自社OTCデスク)に資本を出させ、自らfpTokenを大量に取得
  • そのfpTokenを使い、Flooring ProtocolのプールにロックされていたNFTを「正規の手段で」引き出す
  • 結果、68点のNFTを攻撃者より先にYugaが押さえた

CEOマイケル・フィッゲ氏は同日中にXで詳細を開示している。内訳は前述のBAYC 29、MAYC 4、CryptoPunks 2、Azuki 1、Doodles 2、Elementals 2、Captains 26、Moonbird 1、BAKC 1。Captainsが26点入っているのは「攻撃対象を選り好みできる立場ではなかった」ことの傍証だろう。引き出せるものは全部引き出している。

ここでひとつ強調したい点。Yuga Labsは「ホワイトハット」を名乗っているが、行為そのものは攻撃者と同じだ。脆弱性を使い、本来の所有者の意思を介さずにNFTを動かしている。違うのは動機と返却宣言だけだ。

それでもこれは正しい判断だったと思う。理由は単純で、放っておけば50万ドルが完全に消えていたからだ。

なぜ重要か──「pooled custody」の構造リスクが見えた

技術的なバグは、修正できる。実際、Flooring Protocol側もコミュニティへ向けて修正作業中と説明している。だが今回の事件で問われているのは、コード単体の欠陥ではない。

NFTを「他人のコントラクト」に預け、それをERC-20として再表現する設計そのものだ。

NFTを流動性化したい需要はずっとある。ブルーチップを担保にしたい、分割所有したい、AMMで秒速で売り買いしたい。Sudo、NFTfi、Blur、そしてFlooring。どのプロトコルも、根っこで同じ問題に行き当たる。「ERC-721の一意性」を「ERC-20の代替性」に翻訳する瞬間、コントラクトの内部状態が嘘をつき始める。

今回の脆弱性は、その嘘をつき方の一例にすぎない。BT404の派生実装は他にも存在する。同じ系統のロジックを使っているプロジェクトでは、似た問題が眠っている可能性が低くない。0xQuit氏が「BAYCとCryptoPunks保有者はとくに今後のpooled-NFT商品に注意」と明示的に警告したのも、この含意を踏まえてのことだ。

私個人の見立てを言うと、ここでDeFi/NFTハイブリッドの2回目の冬が来てもおかしくないと思っている。1回目は2022〜2023年の市場収縮で消えた。2回目はテクニカルな信頼の崩壊で来る。今回はそのプレリュードだ。

数字で見る規模感

50万ドル超──というと、最近のDeFiハッキング事例では小粒に見える。Curveの大規模事件は7,300万ドル、最近のEulerは1.97億ドル(回収済み)、Radiantは5,800万ドル。桁が違う。

だが今回の意味は金額ではない。

Flooring ProtocolのTVL自体は事件直前で約300万ドル弱。プールにロックされていたNFTの簿価ベースで50万ドル相当を「Yugaが先に取った」ということは、攻撃可能総量のおおむね15〜20%を物理的に動かした計算になる。残りは引き出せていない(あるいはそもそも対象外だった)。

つまりこれは「全救出」ではない。「最も価値の高い部分集合の確保」だ。BAYCとCryptoPunksをまず取った理由は、ブランド価値の毀損リスクをYuga自身が一番嫌うからでもある。

24時間でNFT全体の取引高は下がった。これは別記事の話題になるが、Flooring Protocolという単一プロトコルの事件が、ブルーチップ全体のフロアプライスへ即座にどう波及したかは、データを追う価値がある。

個人投資家の視点──実用的な3つの判断軸

ここから先は読者の手を動かす話。

第一に、「自分のNFTが今どこにあるか」を見直すこと。Vaultに入れていますか。NFTfiでローン担保にしていますか。Sudoのプールで指値置いていますか。Flooringみたいなフラクショナル系に深く入れていますか。今このタイミングで、いったん引き上げる選択肢は真面目に検討に値する。少なくとも未パッチの脆弱性が走っているプロトコルからは即時引き上げ一択だ。

第二に、ブルーチップNFTを買おうとしている読者へ。ETHの調達経路を整理しておくべきタイミングでもある。NFTマーケット周りはどうしても主要通貨であるETHが必要になる。国内ならCoincheckはNFTマーケットを併設していて、ETH購入→自分のウォレットへ送金、という導線がアプリ1つで完結する。NFTに興味はあるけど取引所選びで止まっている層には、アプリ起点で入るのが現実的だ。

bitFlyerも同じくETHを扱う。板の厚みが効くシーンが多いので、ある程度まとまった額を一度に動かすなら選択肢になる。逆に小口で複数回に分けるなら、手数料体系で比較したほうがいい。

第三に、pooled custody型の商品全般に対する目利き。今回のBT404系列だけでなく、ERC-404、DN404、その派生プロトコルすべてが「ERC-20として流通させるためにERC-721の所有権を抽象化する」レイヤーを噛ませている。そのレイヤーは設計が新しく、監査の蓄積が薄い。「便利な抽象化レイヤーには相応のテール・リスクがある」というのは2021年のCompound事件の頃から変わらない教訓だ。

私の見立て──Yugaの動きが意味する地政学

最後に言いたいのはこの点。

Yuga Labsは2024〜2025年にかけて経営が荒れた。CryptoPunksの位置づけ、Otherside、HV-MTLの整理。多くを切ってきた。その同じYugaが、自社が直接運営しているわけでもないFlooring Protocolの問題に、わざわざ自社のOTCデスクから資本を出して介入した。

これは慈善ではない。BAYC・CryptoPunksというブランドが、自社にとっての残された資産だからだ。1点でも闇に消えた瞬間、ブランド全体の保有体験が「Yugaは助けてくれない」に書き換わる。

逆に言えば、今回の動きはYugaが「ブランド管理者」のポジションを再宣言したアクションでもある。NFTプロジェクトの発行体に求められる役割が、価格チャートを上げることから、エコシステム全体のセキュリティ・カストディアンへ移っている。この変化を読み取れるかどうかが、次の半年でブルーチップNFTを買うかどうかの判断軸になる。

次に見るべきポイントは2つ。Flooring Protocolの正式パッチ公開タイミング(現時点で未確定)と、同種のBT404系派生プロジェクトでの追随脆弱性報告の有無。後者が連鎖した場合、NFT-DeFiの夏休みは終わる。


※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の暗号資産や投資商品の購入を推奨するものではありません。投資は自己責任で行ってください。過去の実績は将来の利益を保証するものではありません。

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