Ethereumに「利回り」というラベルが正式に貼られた。3月12日、BlackRockがNasdaqに上場させたステーキング型ETF「ETHB」。これで世界最大の運用会社が、はじめて利回りを生むクリプトETFを持ったことになる。地味な一歩に見える。だが意味は重い。
数字を先に置く。ETHBの純利回りはおよそ2%、額面のグロスでは3.1%。毎月分配。保有ETHの70〜95%をCoinbase Prime経由でステーキングに回し、グロス報酬のうち約82%を投資家へ配る設計だ。残る18%はBlackRockとCoinbaseがサービス料として抜く。
ETFが「持っているだけで増える」資産に変わった
これまでの現物ETFは、価格に連動するだけの器だった。値上がりすれば得、値下がりすれば損。それ以上でも以下でもない。
ETHBはそこにステーキング報酬を乗せた。Ethereumのネットワークに参加した見返りとして得られる報酬を、ファンドが代行して受け取り、投資家に流す。要するに、ETHが「配当株」っぽい顔をし始めた、ということ。
運用報酬は年0.25%。ただし初年度は最初の25億ドル分まで0.12%に割り引かれる。立ち上がりは速かった。シード資金1億700万ドルから、上場わずか1週間で運用資産は約2億5000万ドルへ膨らんだ。需要はある。それははっきりした。
年2%という数字を、私はどう見るか
正直に言う。2%という数字に、最初はあまり胸が躍らなかった。
米国債やマネーマーケットファンドが、いまだそれなりの利回りを出す環境を考えれば、2%は決して高くない。しかもこれは「ETHの価格変動」という、株式の比でないボラティリティを抱えたうえでの2%だ。価格が3割下がれば、利回りなど一瞬で吹き飛ぶ。
ただ見方を変えると、話は違ってくる。これは「ETHを長期で持つと決めた人」にとっての上乗せだ。どうせ握り続けるなら、寝かせておくより年2%でも回るほうがいい。配当のない資産に、薄くても配当がつく。その心理的な効き目は、数字以上に大きいと個人的には思う。
引っかかるのは手数料の抜き方だ。グロス3.1%のうち18%を運営が持っていく構造。自分で直接ステーキングすれば、本来はもっと取れる。利便性の対価として、それなりの中抜きを払っている格好になる。
自分でステーキングする道と、ETFに任せる道
ここで分岐がある。ETHの利回りが欲しいとき、選択肢はおおむね二つ。
ひとつは、ETHBのような商品に任せる道。確定申告まわりが楽で、ウォレットの管理も鍵の紛失も気にしなくていい。代わりに中抜きを受け入れる。もうひとつは、自分でETHを保有してステーキングする道。手数料は最小化できるが、技術的なハードルと自己責任がついて回る。
忘れてはいけないのが、ステーキングにつきまとう細かなリスクだ。バリデータが不正な挙動をすれば資産が削られるスラッシング、引き出しに時間がかかるロックアップ、そしてステーキング報酬への課税。ETFに任せれば前二者はファンド側が引き受けてくれるが、その安心料が例の18%の中抜きに溶け込んでいる、という見方もできる。タダで楽はできない。
日本の個人投資家にとって悩ましいのは、ETHB自体に手が届きにくいこと。米国Nasdaq上場のETFで、国内証券口座から素直に買えるとは限らない。となると現実的な入り口は、まず現物のETHを国内で押さえることになる。
たとえば取引手数料が無料のGMOコインなら、ETHを積み上げるときのコストを抑えやすい。長期で握る前提なら、買い増しのたびに手数料が削られないのは効いてくる。あるいは板の厚みと約定のしやすさを優先するなら、ビットコイン取引量国内No.1のbitFlyerでETHを調達しておくのも手堅い。どちらにせよ、現物を自分の管理下に置いておけば、将来ステーキングに回すにせよ、国内のステーキングサービスを使うにせよ、選択肢が開けたままになる。
「利回りを持つETH」がもたらす地味だが本質的な変化
ETHBの本当のインパクトは、利回りの数字じゃない。Ethereumという資産の「説明のされ方」が変わる点にある。
これまでETHは、機関投資家への売り込みが難しかった。値動きの根拠を語りにくいからだ。そこにキャッシュフローが付いた。年2%でも、定量的に評価できる「インカム」がある資産は、年金基金や財団の投資委員会のテーブルに乗りやすくなる。実際、5月14日にはダートマス大の基金が1450万ドルをクリプトETFに投じたと報じられた。Ivy Leagueの財団が動くのは、慎重な機関の温度感を映す。
これは2021年のDeFiサマーが「利回り」を投機の道具にしたのとは、質が違う。あのときの二桁・三桁APYは祭りだった。原資が何かもよく分からないまま、数字だけが踊った。今回の2%は、ネットワークの実需に裏打ちされた、退屈だが持続可能性を意識した数字だ。退屈さこそが、機関マネーには信用される。皮肉なものだと思う。
裏を返せば、ETHのステーキング利回りそのものが構造的に下がってきた、という現実もある。ステーキングに参加するETHが増えるほど、一人あたりの取り分は薄まる。2%という水準は、Ethereumが成熟したネットワークになった証でもあり、同時に「もう簡単には稼げない」という成熟のコストでもある。どちらに重心を置くかで、この数字の評価は割れる。
終わりに:派手さはないが、入り口は確実に広がった
ETHBは値上がり益を約束しないし、年2%で誰かが大金持ちになるわけでもない。けれど、Ethereumが「利回りのある資産クラス」として制度の側に一歩入った事実は、後から効いてくるタイプの変化だ。
次に注目したいのは、この設計を他社がどう追うか。そしてグロスからの中抜き率が、競争でどこまで下がるか。利回り商品は手数料の叩き合いになりやすい。投資家にとっては、それはむしろ歓迎すべき展開だろう。ETHを長く持つと決めているなら、まずは現物をどの経路で確保するか——その地味な一歩から考えてみるのがいい。
※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の暗号資産や投資商品の購入を推奨するものではありません。投資は自己責任で行ってください。過去の実績は将来の利益を保証するものではありません。
