Visa・Stripe・Coinbase・Mastercardが組んだ日──Circle/Tether 80%独占の終わり方

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ステーブルコインの覇権争いに、決済の本丸が直接乗り込んできた。Stripe、Visa、Mastercard、Coinbase——この4社が新しいステーブルコイン発行のコンソーシアムを組成する、という話が6月3日にThe Informationで初出し、6月8日のFortuneがさらに詳報した。Circle(USDC)とTether(USDT)で約80%を握ってきた市場に、決済インフラ側が「自分たちで作る」と動いた格好だ。

何が起きたか

報道ベースをまずまとめておく。6月3日にThe Informationが「Stripe・Visa・Mastercard・Coinbaseが新ステーブルコイン発行のコンソーシアム結成を協議」と報じた。続いてCoinDeskがCoinbaseの参加意向を補強する続報を出し、6月8日にFortuneが「Visa/Mastercardは決済勢として参入を狙っているが、実現は簡単ではない」という詳報を載せた。

現時点で確定情報といえるのは、各社が「協議の段階にある」ことまで。MOU(覚書)も結ばれていない、という関係者のコメントも報じられている。だが市場は「いずれ発行される」前提で動き始めている。米国の上場ペイメント株のうち、Visa、Mastercard、Stripe親会社系列のSPAC銘柄は6月8日に揃って小幅上昇、CRCLは時間外で-2.1%の動きを見せた。

整理しておきたいのは、これが「単なる新規発行」ではない、という点だ。世界の決済フローを実際に握っている層が、ステーブルコインのレイヤーまで降りてくる。これがこの一件の中身だ。

なぜ重要か

ステーブルコイン市場の総額は、6月時点でおよそ3,250億ドル超。そのうちUSDTが約1,840億ドル、USDCが約755億ドル。2社合計で約80%。残り20%をPYUSD、USDe、FDUSD、PayPal系、Maker系といったプレイヤーが奪い合っている。

この構造は、過去5年でほとんど崩れたことがない。CircleもTetherも、流通レーンを丁寧に押さえてきたからだ。CircleはCoinbase経由で米国規制適合性の高い層を、TetherはBinance主導の海外現物・先物の決済通貨として、それぞれ別の生態系に深く食い込んだ。

ここに割って入る難しさはあった。Visa/Mastercardは決済処理側の覇者だが、自社発行のドル代替を持たない。Stripeは2025年にBridgeを買収してステーブル決済インフラを内部化したが、自社発行までは踏み込まなかった。Coinbaseは事実上のUSDC共同運営者として、Circleと収益分配契約を結んでいる。

今回のコンソーシアム構想がもし実現するなら、その瞬間にCoinbase × Circleの関係には亀裂が走る。CoinbaseはUSDC収益分配で年間6億ドル前後を得てきたが、自社グループでもう一つステーブルコインを発行・運営するなら、利益相反の処理は無視できない論点になる。アナリストの中には「コインベースはCircleとの再交渉を有利に進めるカードとして使うだけで、実発行はしない」という見立てもある。私はその読みに半分賛成、半分懐疑的だ。再交渉カードとして使うのは間違いない。ただ、ここまで4社の名前が並んだ協議が進んでいる以上、最終的には何らかの発行体が立つほうに賭けたい。

過去の類似事例──Libra/Diemとどう違うか

似た構図は2019年にあった。FacebookがLibra構想を打ち出し、Visa、Mastercard、PayPal、eBay、Stripe、Mercado Pago、Booking.comらをコンソーシアムに集めた。あの時もペイメント大手が並んでいた。結果は知られているとおり、各国規制当局の集中砲火を受け、Diemに改名、最終的にスタブルコイン技術はSilvergateに身売りされて事実上の解散になった。

今回が違うのは3点ある。第一に、規制環境が様変わりした。米国は2025年6月にGENIUS法が成立、ステーブルコイン発行の連邦ライセンス枠組みが整った。EUはMiCAが本格運用、日本は今月から海外発行trust型ステーブルコインを正式に「電子決済手段」として認める枠組みを発効させた。「発行体が逃げ場のないグレーゾーンで戦う」状況ではなくなっている。

第二に、技術スタックが厚くなった。CircleはCCTP V2、TetherはOmnichain送金網、Visa自身も2024年からUSDC決済の試験を続けている。決済→チェーン間の橋渡しに必要な配管はおおむね揃った。

第三に、参加企業がすでにステーブル分野で「お金を使っている」点だ。StripeはBridgeを買収しているし、CoinbaseはBaseチェーンで完全にステーブル経済圏を内製化している。Libra時のFacebookは「これから作る」だったが、今回は「すでに作っている部品を持ち寄る」に近い。

ここまで条件が揃って、それでもCircle/Tetherを切り崩せないなら、それは寡占ではなく構造的優位だったということになる。

個人投資家への含意

国内投資家の視点で整理する。

まず、USDC・USDTの2強体制は短期では揺らがない。新コンソーシアム発の通貨が出るとしても、報道ベースでは早くて2026年末、現実的には2027年中盤以降の話だ。BTCやETHを買って、必要に応じてUSDCで一時退避する、という基本動線はしばらく機能し続ける。実務面では、USDCはETHベースの流通量が最も厚いので、国内取引所でETHを買って自分のウォレットに送る経路を持っておくと使い勝手が良い。NFTマーケットとの併用も視野に入れるなら、ETHの板が厚くNFTマーケット併設のCoincheck経由が現実的な選択肢のひとつになる(これは記事中で動線として触れる一箇所だけにとどめる)。

次に、Circle(CRCL)株を持っている個人投資家にとっては、長期で見るとシェア圧迫リスクは織り込む必要がある。同社の収益はUSDCのリザーブ運用利息に大きく依存しており、流通シェアの低下は直接の利益圧迫要因になる。発行体の収益モデルそのものが、参入余地のあるニッチであることが、今回の動きで改めて確認された格好だ。

3つ目に、CoinbaseはUSDCとの収益分配再交渉に向かう公算が大きい。もしCircleが分配条件で譲歩しなければ、Coinbaseは新コンソーシアム側に本気で乗り、Circle収益の数億ドルを取り戻しに行く。この駆け引きはCRCL株のボラティリティ要因になる。

私の見立て

正直、4社のコンソーシアムが今すぐ新通貨を発行する確率は、私は5割を割って見ている。最終的にはCircleとの分配再交渉で着地、というシナリオに4割、本気の独自発行に3割、Libra方式で頓挫に3割、というところだ。

ただ、確率分布より重要なのは「決済インフラ大手が、自分たちで作りに行く選択肢を本気で検討している」という事実そのものだ。これはCircle/Tetherにとって、シェアではなく価格交渉力の天井を示された一件になる。今後、両社がCoinbaseやVisaに対して提示する条件は、確実に変わる。

次の30日で見るべきポイントは、(1)4社のうちどこが最初に公式声明を出すか、(2)Circle側の反応(株価ではなく経営層のメッセージ)、(3)規制当局——特にOCCとFRBが沈黙を続けるか何らかの観測気球を出すか。ステーブルコインのレイヤーは2026年下半期、想像以上に動く。


※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の暗号資産や投資商品の購入を推奨するものではありません。投資は自己責任で行ってください。過去の実績は将来の利益を保証するものではありません。

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