SECがトークン化株式の解禁を先送り──第三者トークンが暴いた所有権の穴

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「年内には出る」と業界が踏んでいた規定が、土壇場で止まった。米証券取引委員会(SEC)は2026年5月23日、トークン化株式に道を開くはずだった免除規定の公表を先送りした。理由は技術的トラブルではない。誰がその株を本当に持っているのか、という古典的な問いに答えが出なかったからだ。数日の延期に見えて、実のところ制度の根っこを問い直す出来事だった。

何が止まったのか

SEC内部では「イノベーション免除(innovation exemption)」と呼ばれる枠組みの草案がほぼ仕上がっていた。一部報道では、その週のうちにも公表される見込みだったという。それが、証券取引所の幹部や市場参加者からのフィードバックを受けて棚上げになった。

焦点は「第三者発行トークン(third-party tokens)」だ。これはAppleやTeslaのような上場企業の株式を表すトークンを、当の企業の関与や承認なしに第三者が発行できる、という設計を指す。

要するに、企業が知らないところで自社株のコピーがブロックチェーン上に出回る可能性。ここにSECは引っかかった。

そもそもトークン化株式とは何か

念のため整理しておく。トークン化株式は、AppleやTeslaといった実在の株式を裏付けに、ブロックチェーン上でそれを表すトークンを発行する仕組みだ。狙いは三つ。24時間取引、1株未満の小口分割、そして国境をまたいだ即時決済。従来の証券インフラが苦手としてきた領域を、まとめて潰しにいく発想だ。

ここで分かれ道がある。発行体が企業公認で、原資産1株とトークン1枚を厳密に紐づける「保守型」。もう一方が、第三者が企業の許可なく自由に発行する「開放型」。今回SECが躓いたのは、後者の開放型をどこまで認めるか、という一点だった。

業界がこの分野に色めき立った背景には、RWA(実物資産のトークン化)市場の急拡大がある。国債や債券、不動産をチェーンに載せる動きが2025年に一気に膨らみ、株式はその「最後の大物」と見なされてきた。だからこそ、SECがゴーサインを出すかどうかに視線が集まっていた。

なぜブレーキを踏んだのか

配当をどう配るか。株主総会の票をどう数えるか。名簿をどう正確に保つか。元規制当局者や市場構造の専門家が口を揃えて警告したのが、この三点だった。

匿名性の高いチェーン上でトークンが増殖していくと、企業側は誰に配当を払い、誰の議決権を認めるのか追えなくなる。私はここが一番の本質だと思う。トークン化の魅力は「24時間動く・分割できる・国境を越える」点にあるが、その同じ性質が、株主管理という地味で重い実務を一気に壊しかねない。

さらに別の懸念。KYC(本人確認)が緩いプラットフォームにトークン化証券が乗れば、制裁対象の海外主体が事実上の株主になり得る、という指摘も出た。証券のグローバル流通という夢の裏に、コンプライアンスの穴がぽっかり空いている。

ピアスでさえトーンを抑えた

注目すべきは、いわゆる「クリプト・マム」ことヘスター・ピアス委員の発言だ。クリプトに前向きとされる彼女が、今回は期待値を下げにかかった。免除は限定的なものになるだろう、と。

ピアス委員いわく、対象はあくまで「投資家が今日セカンダリー市場で買えるのと同じ原資産のデジタル表現」であって、合成的なシンセティック商品ではない。推進派の旗振り役が「広げすぎるな」と釘を刺した格好で、これはこの先の制度設計の上限を示している。

過去のブームと何が違うか

実は、株式のトークン化は今に始まった話ではない。2025年には欧州を中心に、米国株を裏付けにしたトークンを個人が買える商品がいくつも登場した。だが、その多くは「原資産は別の事業者が保管し、利用者が持つのは派生的な請求権」という構造で、配当や議決権の扱いが曖昧なまま走り出した。

私はこの既視感が引っかかる。仕組みは新しいのに、つまずく場所はいつも同じ。誰が本当の株主で、企業はその人にどう向き合うのか。テクノロジーが先行して、ガバナンスが後追いになる──2017年のICOバブルから、構図はほとんど変わっていない。

今回SECが踏みとどまったのは、その「後追い」を制度の入口で食い止めようとしたから、とも読める。遅いと批判するのは簡単だ。ただ、株主名簿という金融の背骨を一度壊すと、戻すのは容易ではない。

日本の制度論と重ねて読む

ここで国内に目を移したい。日本でも金融庁が、暗号資産を資金決済法から金融商品取引法(金商法)へ移す改正案を2026年の通常国会に提出する方向で動いている。有価証券並みの開示義務、インサイダー規制、交換業者への責任準備金の積み立て──。方向性は「投資商品として厳格に扱う」だ。

つまり日米とも、トークンを「証券の世界の作法」に引き戻そうとしている。SECの今回の足踏みは、その作法とトークンの自由さが、まだ噛み合っていない証拠でもある。RWA(実物資産のトークン化)という言葉が独り歩きしていた2024〜25年の熱狂を思い出すと、ようやく実装の現実が追いついてきた、という印象を受ける。

個人投資家は何を見ておくべきか

短期的には、これで「米国株がそのままチェーンに乗る」未来が遠のいたわけではない。延期であって、否決ではないからだ。ただ、第三者発行型の野心的なモデルは縮小され、企業公認・原資産1対1の保守的な形に収束していくとみる。

私の見立てを言えば、勝つのは「速さ」より「名簿を壊さない設計」だ。誰が発行し、誰が配当の責任を負い、議決権をどう写すか。この三点をクリアにできる事業者だけが、規制の通り道を抜けられる。派手なトークン化のニュースが流れても、まずこの問いに答えているかを確認したい。次に見るべきは、SECが免除の「範囲」をどこまで絞って再提示するか、その一点だ。

※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の暗号資産や投資商品の購入を推奨するものではありません。投資は自己責任で行ってください。過去の実績は将来の利益を保証するものではありません。

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